万寿丸が属する北海炭山会社のランチは、すぐに勢いよくやって来た。
とも、おもてのサンパンも、赤|毛布《げっと》で作られた厚司《あつし》を着た、囚人のような船頭さんによって、漕《こ》ぎつけられた。沖売ろうの娘も逸早《いちはや》く上がって来た。
水夫たちは、ボイラー揚陸の準備前に、朝食をするために、おもてへ帰って来た。
食卓には飯とみそ汁と沢庵《たくあん》とが準備されてある。一方の腰かけのすみには、沖売ろう――船へ菓子や日用品を売り込みに来る小売り商人――の娘が、果物《くだもの》や駄菓子《だがし》などのはいった箱を積み上げて、いつ開こうかと待っているのであった。
船員は、どんな酒好きな男でも、同時に菓子好きであった。それは、監獄の囚人が、昼食の代わりに食べるアンパンを持って通る看守を見て、看守はアンパンが食べられるだけ、この世の中で一番幸福な人間だと思うのと同じであった。監獄と、船中においては、甘いものは、ダイアモンドよりも貴《とうと》かった。
波田は、その全収入をあげて、沖売ろうに奉公していた。彼は、船員としての因襲的な悪徳にはしみない性格であったが、「菓子で身を持ちくずす
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