「売り物だったら買い手もあろうじゃないか」
 おやじは、もう三上と「まじめ」な話をすることは「やめた」と決めた。が、それにしても、こんな野郎に「踏み止《とど》まれちゃ」商売が上がってしまうのだった。
 「お前もう横浜じゃとてもだめだから、神戸《こうべ》へでも行って見たらどうだね、そのサンパンに乗ってさ。え」
 「おらあ、万寿が帰って来るまで待ってるよ。浜で。船員手帳はおれのもんだからなあ」
 「万寿の船長は、お前を監獄にほうり込んでやるといってたそうだぜ」
 「船長が、しかしそうはしないだろうよ。おれが監獄へほうり込まれる前に、やつが海ん中へたたっ込まれるだろうよ」
 「お前は、船長を、おどかしたってえじゃないか、『海ん中へたたっ込むぞっ』て。どえらいことをやったもんだなあ、だが、おもてはみな大喜びだったぜ。『何だったって三上はえらい、やる時になりゃあのくらいやるやつあない』ってさ。だが、少し気をつけないといけないぜ、しばらくお前は横浜を離れてた方がいいんだがなあ。どうだい神戸か長崎へでも行って見ちゃ」
 「おやじが海員手帳を取ってくれるかい?」
 「それや取ってやってもいいが、渡さ
前へ 次へ
全346ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング