乗りが、下船してボーレンに休めば、次の船に乗るまでの間、そこに休んでその間に、口をさがすのが、その唯一の道であった。
「ああ、万寿丸にゃもうあきたからなあ、今度はほんとうの遠洋航路だ」どうも、だが、おやじめ様子が怪しいぞ、今日万寿に行ったんじゃないかな、と思ったが、できるまで空っとぼけた方がいいと思いついた。
「そうか、遠洋航路もいいだろう。だが、遠洋航路は履歴が美しくないといけないな。おまえの手帳をちょっと見せな、預かっとこう」
手練の手裏剣見事に三上の胸元を刺した。
「あ! 船員手帳!」と驚いて三上は膝《ひざ》をたたいた。「船に忘れて来たぞ」
「冗談いっちゃいけない。三上、おれは今日万寿で、すっかり様子を聞いて来たんだぞ。いい加減にしろ、伝馬まで乗り逃げやりやがって。どうしたい伝馬なんか」
「ええ! こうなりゃ癪《しゃく》だ、いっちまえ、畜生! 伝馬はつないであるよ」
「どこにあるんだい」
「おやじのサンパンのつないであるところさ」
「何だってあんな邪魔っけなものを、のろのろと漕《こ》いで来たんだい」
「売り飛ばすつもりなんだ!」
「買い手はあるつもりかい」
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