ねえだろう。おれんとこに、あれよりもよっぽどいい履歴のがあるから、それを持って行けよ」
 三上は、別人の手帳を持って、別人になって、神戸へ行った。伝馬は、ボーレンのおやじが預かって、万寿が入港したら返すことにした。
 海員の雇い入れは、その手続きが全く面倒であった。きわめて、厳格なる手続きの下《もと》に、きわめて厳格に取り締まられて、そして、彼らほど搾取される労働者は、多く他に例を見ないのであった。たとえば、三上は五年間汽船に乗っていて、ようやく月給十八円になったばかりであった。話にならないのだ。全く!
 しかも、それに対して、命はおおっぴらに投げ出してあるのだ!

     二四

 北海道万寿炭坑行きのボイラー三本を、万寿丸は、横浜から、室蘭への航海に、そのガラン洞《どう》の腹の中に吸い込んだ。それははなはだ手間の取れる厄介な積み込みであった。だが横浜には、そんな種類の荷役《にやく》になれた仲仕《なかし》は沢山あった。従って、水夫たちも安心して、その作業を手伝った。それに、チーフメーツもそれらのことを知っているから、それほど興奮もしなかった。
 珍しい荷物であったので、退屈を紛らし
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