《ひとり》だけが、当の責任者に転化したことを痛感した。
小倉は、非常に善良ではあるが、意志の弱い、そしていわゆる冷静な、分別のある若者だった。それで従っていつでも「事なかれ主義」であった。その逃避的な彼が、旋風的事件の中心に巻き込まれたのだから、たまらなかった。彼は何をどうしていいか、自分自身が何であるか、一体全体どうしたらいいんだか、さっぱり一切がわからなかった。
だれもがそれまで打ち明けてもいないのに、いつでも、その人間の最も重大な秘密なことになって、自分の手で収まりがつきかねそうになると、だれもが、決して普段それほど親密でもないように見える、藤原へ、相談を持ちかけるのがきまり切った例になっていた。小倉も、この例によって、藤原へ意見を求めようと決心した。
藤原は、今まで自分が中心になっていた、その話から、避けて、一方のすみで、黙ってその事件の話を聞いていた。そして、煙草《たばこ》を「尻《しり》からヤニの出る」ほどに、やけにふかしているのだった。
「藤原君。君はどうしたらいいと思うかい」と、小倉は藤原と向かい合って腰をおろしながらきいた。
「よくはまだわからないけれど、僕の
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