「様子はわからんでもいいよ。あの伝馬をたたき売るか、質に入れるかして、おれたちはどっかへ行った方がいいよ」三上は自分の計画を初めて口に出した。
 「でも、そいつあ困るなあ。僕は海員手帳が預けてあるし行李《こうり》もあるし、そいつあ弱るよ」小倉は全く困るのだった。彼は船長免状を取る試験のために、二度も沈没したりして、それに必要な履歴が実地として取ってあった。それは海員手帳に記入されてあった。
 「だから、さようならって僕がさっきからいうのに、いつまでも君がぐずぐず、ついて来るからよ。君はサンパンを雇って帰れ。そして、三上が伝馬を盗んだとでも、何とでもいって、置けばいいじゃないか。僕はこれを売って、どこかへ行くんだから。行李や、手帳なんぞほしくもないや。早く君は帰れ!」
 三上はクルッと反対の方を向いて、桟橋の方へ歩を返した。小倉も無意識にそれに従った。
 「だって、すこしも君だけが悪いことはないじゃないか、大体船長が無理なんじゃないか、だから、帰ったって何ともないよ。帰った方がいいよ」小倉は、しきりに穏便な方法をとることを三上にすすめた。
 「何でもかんでもいやだよ、おれは。もし帰る気に
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