た」と思わせるのである。
 三上と、小倉とは、各《おのおの》が、そんなふうな感じをもって、朝の六時に起きた。二人ともはれぼったい目をしていた。
 一夜は明けた。そして、重大なる事件は未解決のままに、夜を持ち越して、明けたのであった。それは、一夜を持ち越したために、事実の形を千倍もの太さにしてしまった。一夜――五時間――伝馬繋留《てんまけいりゅう》――水夫睡眠――何でもないことであった。それは全くきわめて平凡な詰まらないことであった。
 ところが、それの舞台を、社会から、万寿丸にまで縮めると、問題が由々《ゆゆ》しく大きくなるのだった。
 とまれ、小倉は「階段」のことは忘れたにしても、一応は、本船へ帰ってから、万事を解決した方がいいと考えた。ところが、三上は、それはばかなやり方だ、と考えた。そこに、三上と小倉との差違があった。
 二人はその家を出た。そして、海岸を伝馬のある方へ逆に歩きながら、その事件の締めくくりについて考え合った。[#底本では「。」なし]
 「おらあ帰らんよ」と三上は、さっきからいい続けていた。
 「でも帰らなきゃ様子がわからないじゃないか」これは小倉の言い草だった。
 
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