なったら、出帆間ぎわに帰る。それまでおれは隠れてて船の様子を見ることにするよ」
彼はこういってズンズン歩いて行った。
小倉は夢でも見続けているように、ボンヤリしながら、三上のあとから無意識に歩いた。
三上は波止場に来て、昨夜つないだ船の伝馬にヒョイッと飛び乗った。小倉も乗ろうとすると、手を振って「みんなに、出帆間ぎわにこれ――といって伝馬を指さして――で帰るからといっといてくれよ。なあ」といいながら、グーッと波止場を押して、離れてしまった。
小倉は失心したようにたたずんでいた。
三上は、その五人前もあるような腕に力をこめて橋の下をくぐって見えなくなってしまった。
「なるほど、三上は帰れないはずだ。船長を脅《おど》かしたんだもんなあ、それを帰れといって、昨夜《ゆうべ》一晩泊まった、おれは何という白痴だったんだ。三上は、たとい理由があろうがあるまいが、どのみちやッつけられるに決まっていたんだ。三上は、伝馬を質に入れるなんて、やつ一流の計画を立てて行っちゃった。が、それがどんなこっけいなやり方であろうが、やつがのこのこ船へ帰るよりははるかにましなこった。知っていて、陥穽《おとしあ
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