そのために主人は一時身が危険であった。主人は、いつでも、家から出て行くと、まるで、強盗殺人の中へションボリ置かれているようなものだ」と思い込んでしまった。そのくせ彼女は、いつも今まで主人の口から「おれは船中で一番えらい地位を持っていて、船員ならどんなやつでもフン縛ることまでできるんだ。それで船ではおれは、いわば陸でいう王様のようなものだ! おれは自由に手足のように船員を使うんだ。そしておれがいないと、あの大きな汽船が、まるで動くことができないんだ。とまれ、万寿丸では王様だ」と聞いていたのだ。で、今は、そのどちらでもあるのだろう。「船の中には、まともな人間としては主人だけだろう。あとはナラズ者がそろっているのだろう」と、考えた。
二人は床の中で夜の明けるまで話した。
一九
三上と小倉は、水からはい上がった犬のような格好で、サンパン小屋の前へ行った。そこは、ルンペンプロレタリアがサンパン押しとして、虱《しらみ》のように、ウヨウヨ小さな家の中に詰め込まれていた。そこは、昼も夜もなかった。そこに集まっている者はすべてが、永劫《えいごう》の昔から、無限の未来まで、そこで寝ころん
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