突っ込んだ。そしてガサガサあわてながら、また五十銭銀貨を二枚つかみ出した。「スッカリ忘れてた」
「まだ忘れてるよ」三上は押っかぶせるようにいった。
船長は、五十銭玉を二つつかんだまま、ブルブル震えながら、そこへ突っ立っていた。早く帰りたいのになあ。チェッ!
「いくらいるんだね」とうとう船長はごまかし切れなくなってきいた。
「十円」三上は答えた。
「十円!」船長は、すっかり驚いた。二円出したことが彼にとっては、とても思い切った奮発だったのに。三上は十円を要求するのである。
「それや明日《あす》でよかないか」船長は明日は一切を解決することを知っていた。
「明日は明日だ」といったが、三上の心中には、今、口から出したくらいでは、とてもはけ切れない激怒の情が、その全身の中に爆発した。
「今夜帰れば途中で凍えるわい!」と、彼は、船長の頭の上から、ハンマーででも打ちおろしたように怒鳴りつけた。
「手前《てめえ》は帰ってかかあと寝る! おれたちゃ帰りに凍えるわい! この汗を見ろ!」
暗《やみ》に見えなかったが、二人は外は飛沫《ひまつ》にかかってぬれ、内は汗でぬれ、かわいたところは、
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