は、思わず叫んだ。
船長はビックリした。危うくトランクを取り落とそうとしたほどビックリした。そして何も考える間もなく、三上は船長の前に立ちふさがった。
「どうしたんだ。わからねえや」三上は啀《か》むように怒鳴った。
小倉は、静かに、黙って、成り行きを見ていた。「おれはこの場合すべき事を知っているんだ。ものは始まってからでなければ済むものではない。だが、それはまだ始まっていないんだ!」
「小倉に金を渡しといたから、あれで何か食べて帰れ!」船長は、自分の立っているところが、まだ波止場であることは、非常に形勢を不利にすると、考えていた。――逃げるには逃げられぬわい――
三上は、黙って、船長の前に突っ立っていたが、やがて、身を引いた。
船長はホッとしながら歩きかけた。三上はまた突然その前へ行って立ちふさがった。
――今度は何か起こる――と、船長も、小倉もとっさに感じた。
三上は万寿丸で、一番強力だった。横痃《よこね》のはじけそうな時でも、二人分の力持ちを、平気でやった男だ。
「忘れちゃいないね」と、三上はうなった。
「あ、そうか、そうか」と、船長はいって、またポケットへ手を
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