ている。そして、小倉などは、一村の運命をになって志を立てようとしていた。地理的にいっても、社会的にいっても、海は最も低いところで、そこへ流れて来た「人間のくず」どもは、現社会の一切ののろいを引き受けて来ているように見えた。
 女郎買いをすることは、船員の常習[#「常習」は底本では「学習」と誤記]であるといわれていた。ことに下級船員は、そのために、全収入を蕩尽《とうじん》するのだと、社会は例外なく考えている。そして、それは、多くの場合事実である。が、それがどうしたというのだ。
 彼らも女郎買いをしたくはないのだ。愛人が必要なのだ。だが、今の社会で口のあいた靴《くつ》をはいて、油だらけの菜っ葉服を着て、足の踵《かかと》のように堅い手の皮を持った、金をそのくせ持っていない、「海坊主」を、だれが一体相手になってくれるんだ! いつ海の藻屑《もくず》と消えるか、いつ片手をもぎ取られるか、いつ、遠洋航路につくかわからない、無細工な「海坊主」どもを、どこの「娘」が相手になるか。
 ブルジョアどもは、その娘をダンスホールへ陳列し、プロレタリアの娘を、監獄のよりも高い煉瓦塀《れんがべい》の取りめぐらされた
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