国と貿易を始めると直ぐ建てられたらしい、古い煉瓦建《れんがだて》の家が並んでいた。ホンコンやカルカッタ辺の支邦人街と同じ空気が此処にも溢《あふ》れていた。一体に、それは住居《すまい》だか倉庫だか分らないような建て方であった。二人は幾つかの角《かど》を曲った挙句《あげく》、十字路から一軒置いて――この一軒も人が住んでるんだか住んでいないんだか分らない家――の隣へ入った。方角や歩数等から考えると、私が、汚れた孔雀《くじゃく》のような恰好《かっこう》で散歩していた、先刻《さっき》の海岸通りの裏|辺《あた》りに当るように思えた。
私たちの入った門は半分|丈《だ》けは錆《さ》びついてしまって、半分だけが、丁度《ちょうど》一人だけ通れるように開いていた。門を入るとすぐそこには塵埃《ごみ》が山のように積んであった。門の外から持ち込んだものだか、門内のどこからか持って来たものだか分らなかった。塵の下には、塵箱が壊れたまま、へしゃげて置かれてあった。が上の方は裸の埃《ほこり》であった。それに私は門を入る途端にフト感じたんだが、この門には、この門がその家の門であると云う、大切な相手の家がなかった。塵の積
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