は余り出し抜けなので、その男の顔を穴のあく程見つめていた。その男は小さな、蛞蝓《なめくじ》のような顔をしていた。私はその男が何を私にしようとしているのか分らなかった。どう見たってそいつは女じゃないんだから。
「何だい」と私は急に怒鳴った。すると、私の声と同時に、給仕でも飛んで出て来るように、二人の男が飛んで出て来て私の両手を確《しっか》りと掴《つか》んだ。「相手は三人だな」と、何と云うことなしに私は考えた。――こいつあ少々面倒だわい。どいつから先に蹴っ飛ばすか、うまく立ち廻らんと、この勝負は俺の負けになるぞ、作戦計画を立ってからやれ、いいか民平!――私は据《す》えられたように立って考えていた。
「オイ、若えの、お前は若え者がするだけの楽しみを、二|分《ぶ》で買う気はねえかい」
蛞蝓《なめくじ》は一足下りながら、そう云った。
「一体何だってんだ、お前たちは。第一何が何だかさっぱり話が分らねえじゃねえか、人に話をもちかける時にゃ、相手が返事の出来るような物の言い方をするもんだ。喧嘩《けんか》なら喧嘩、泥坊なら泥坊とな」
「そりゃ分らねえ、分らねえ筈《はず》だ、未《ま》だ事が持ち上らねえか
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