きであることを語って、私は自分の善良なる性質を示して彼女に誇りたかった。
 彼女はやがて小さな声で答えた。
「私から何か種々《いろいろ》の事が聞きたいの? 私は今話すのが苦しいんだけれど、もしあんたが外の事をしないのなら、少し位話して上げてもいいわ」
 私は真赤になった。畜生! 奴は根こそぎ俺を見抜いてしまやがった。再び私の体中を熱い戦慄《せんりつ》が駈け抜けた。
 彼女に話させて私は一体どんなことを知りたかったんだろう。もう分り切ってるじゃないか、それによし分らないことがあったにした所で、苦しく喘《あえ》ぐ彼女の声を聞いて、それでどうなると云うんだ。
 だが、私は彼女を救い出そうと決心した。
 然し救うと云うことが、出来るだろうか? 人を救うためには(四字不明)が唯一の手段じゃないか、自分の力で捧げ切れない重い物を持ち上げて、再び落した時はそれが愈々《いよいよ》壊れることになるのではないか。
 だが、何でもかでも、私は遂々《とうとう》女から、十言|許《ばか》り聞くような運命になった。

    四

 先刻《さっき》私を案内して来た男が入口の処へ静《しずか》に、影のように現れた。そし
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