。だから、私は彼女に、私が全《まる》で焼けつくような眼で彼女の××を見ていると云うことを、知られたくなかったのだ。眼だけを何故《なぜ》私は征服することが出来なかっただろうか。
若《も》し彼女が私の眼を見ようものなら、「この人もやっぱり外の男と同じだわ」と思うに違いないだろう。そうすれば、今の私のヒロイックな、人道的な行為と理性とは、一度に脆《もろ》く切って落されるだろう、私は恐れた。恥じた。
――俺はこの女に対して性慾的などんな些細《ささい》な興奮だって惹《ひ》き起されていないんだ。そんな事を考える丈《だ》けでも間違ってるんだ。それは見てる。見てるには見てるが、それが何だ。――私は自分で自分に言い訳をしていた。
彼女が女性である以上、私が衝動を受けることは勿論《もちろん》あり得る。だが、それはこんな場合であってはならない。この女は骨と皮だけになっている。そして永久に休息しようとしている。この哀れな私の同胞に対して、今まで此室に入って来た者共が、どんな残忍なことをしたか、どんな陋劣《ろうれつ》な恥ずべき行《おこない》をしたか、それを聞こうとした。そしてそれ等の振舞が呪《のろ》わるべ
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