ら力が抜け出したように感じたので、しゃがんだ。
「あまりひどいことをしないでね」と女はものを言った。その声は力なく、途切《とぎ》れ途切れではあったが、臨終の声と云うほどでもなかった。彼女の眼は「何でもいいからそうっとしといて頂戴《ちょうだい》ね」と言ってるようだった。
私は義憤を感じた。こんな状態の女を搾取材料にしている三人の蛞蝓《なめくじ》共を、「叩《たた》き壊してやろう」と決心した。
「誰かがひどくしたのかね。誰かに苛《いじ》められたの」私は入口の方をチョッと見やりながら訊《き》いた。
もう戸外はすっかり真っ暗になってしまった。此だだっ広い押しつぶしたような室《へや》は、いぶったランプのホヤのようだった。
「いつ頃から君はここで、こんな風にしているの」私は努《つと》めて、平然としようと骨折りながら訊《き》いた。彼女は今私が足下の方に踞《うずくま》ったので、私の方を見ることを止めて上の方に眼を向けていた。
私は、私の眼の行方《ゆくえ》を彼女に見られることを非常に怖《おそ》れた。私は実際、正直な所其時、英雄的な、人道的な、一人の禁欲的な青年であった。全く身も心もそれに相違なかった
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