一滴を涸《か》らしてしまったんではあるまいか。そしてそこでも愈々《いよいよ》働けなくなったんだ。で、遂々《とうとう》ここへこんな風にしてもう生きる希望さえも捨てて、死を待ってるんだろう。
三
私は彼女が未《ま》だ口が利けるだろうか、どうだろうかが知りたくなった。恥しい話だが、私は、「お前さんは未だ生きていたいかい」と聞いて見る慾望をどうにも抑えきれなくなった。云いかえれば人間はこんな状態になった時、一体どんな考を持つもんだろう、と云うことが知りたかったんだ。
私は思い切って、女の方へズッと近寄ってその足下の方へしゃがんだ。その間も絶えず彼女の目と体とから私は目を離さなかった。と、彼女の眼も矢っ張り私の動くのに連れて動いた。私は驚いた。そして馬鹿々々しいことだが真赤になった。私は一応考えた上、彼女の眼が私の動作に連れて動いたのは、ただ私がそう感じた丈《だ》けなんだろう、と思って、よく医師が臨終の人にするように彼女の眼の上で私は手を振って見た。
彼女は瞬《またたき》をした。彼女は見ていたのだ。そして呼吸も可成《かな》り整っているのだった。
私は彼女の足下近くへ、急に体か
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