様な臭気の中で人間の肺が耐え得るかどうか、と危ぶまれるほどであった。彼女は眼をパッチリと見開いていた。そして、その瞳《ひとみ》は私を見ているようだった。が、それは多分何物をも見てはいなかっただろう。勿論《もちろん》、彼女は、私が、彼女の全裸の前に突っ立っていることも知らなかったらしい。私は婦人の足下《あしもと》の方に立って、此場の情景に見惚《みと》れていた。私は立ち尽したまま、いつまでも交《まじわ》ることのない、併行《へいこう》した考えで頭の中が一杯になっていた。
 哀れな人間がここにいる。
 哀れな女がそこにいる。
 私の眼は据《す》えつけられた二つのプロジェクターのように、その死体に投げつけられて、動かなかった。それは死体と云った方が相応《ふさわ》しいのだ。
 私は白状する。実に苦しいことだが白状する。――若《も》しこの横われるものが、全裸の女でなくて全裸の男だったら、私はそんなにも長く此処に留っていたかどうか、そんなにも心の激動を感じたかどうか――
 私は何ともかとも云いようのない心持ちで興奮のてっぺんにあった。私は此有様を、「若い者が楽しむこと」として「二|分《ぶ》」出して買っ
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