て見ているのだ。そして「お前の好きなようにしたがいいや」と、あの男は席を外《はず》したんだ。
 無論、此女に抵抗力がある筈《はず》がない。娼妓《しょうぎ》は法律的に抵抗力を奪われているが、此場合は生理的に奪われているのだ。それに此女だって性慾の満足のためには、屍姦《しかん》よりはいいのだ。何と云っても未《ま》だ体温を保っているんだからな。それに一番困ったことには、私が船員で、若いと来てるもんだから、いつでもグーグー喉《のど》を鳴らしてるってことだ。だから私は「好きなように」することが出来るんだ。それに又、今まで私と同じようにここに連れて来られた(若い男)は、一人や二人じゃなかっただろう。それが一一(四字不明)どうかは分らないが、皆が皆|辟易《へきえき》したとも云い切れまい。いや兎角《とか》く此道ではブレーキが利きにくいものだ。
 だが、私は同時に、これと併行《へいこう》した外の考え方もしていた。
 彼女は熱い鉄板の上に転がった蝋燭《ろうそく》のように瘠《や》せていた。未だ年にすれば沢山《たくさん》ある筈《はず》の黒髪は汚物や血で固められて、捨てられた棕櫚箒《しゅろぼうき》のようだった。
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