。そして坐りたくてならないのを強《し》いて、ガタガタ震える足で突っ張った。眼が益々闇に馴れて来たので、蔽《おお》いからはみ出しているのが、むき出しの人間の下半身だと云うことが分ったんだ。そしてそれは六神丸の原料を控除した不用な部分なんだ!
私は、そこで自暴自棄な力が湧《わ》いて来た。私を連れて来た男をやっつける義務を感じて来た。それが義務であるより以上に必要止むべからざることになって来た。私は上着のポケットの中で、ソーッとシーナイフを握って、傍に突っ立ってるならず者の様子を窺《うかが》った。奴《やつ》は矢っ張り私を見て居たが突然口を切った。
「あそこへ行って見な。そしてお前の好きなようにしたがいいや、俺はな、ここらで見張っているからな」このならず者はこう云い捨てて、階段を下りて行った。
私はひどく酔っ払ったような気持だった。私の心臓は私よりも慌《あわ》てていた。ひどく殴《なぐ》りつけられた後のように、頭や、手足の関節が痛かった。
私はそろそろ近づいた。一歩々々臭気が甚《はなはだ》しく鼻を打った。矢っ張りそれは死体だった。そして極《きわ》めて微《かす》かに吐息が聞えるように思われた
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