《は》りついていた。テーブルも椅子《いす》もなかった。恐ろしく蒸し暑くて体中が悪い腫物《しゅもつ》ででもあるかのように、ジクジクと汗が滲《し》み出したが、何となくどこか寒いような気持があった。それに黴《かび》の臭いの外に、胸の悪くなる特殊の臭気が、間歇《かんけつ》的に鼻を衝《つ》いた。その臭気には靄《もや》のように影があるように思われた。
畳にしたら百枚も敷けるだろう室は、五燭らしいランプの光では、監房の中よりも暗かった。私は入口に佇《たたず》んでいたが、やがて眼が闇《やみ》に馴《な》れて来た。何にもないようにおもっていた室《へや》の一隅に、何かの一固《ひとかたま》りがあった。それが、ビール箱の蓋《ふた》か何かに支えられて、立っているように見えた。その蓋から一方へ向けてそれで蔽《おお》い切れない部分が二三尺はみ出しているようであった。だが、どうもハッキリ分らなかった。何しろ可成《かな》り距離はあるんだし、暗くはあるし、けれども私は体中の神経を目に集めて、その一固りを見詰めた。
私は、ブルブル震《ふる》え始めた。迚《とて》も立っていられなくなった。私は後ろの壁に凭《もた》れてしまった
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