のかけた電話によって警察の自動車が時を移さず家《うち》の前についた。立《たち》しぶる宿の内儀《かみ》さんを引立てゝ、一行は海浜旅館へ自動車を疾走《はし》らせた。
 旅館の玄関へ着くと、一行はドヤと帳場へ入っていった。支配人は呆然として先に立ったA嬢の顔を瞶《みつ》めていたが、
「これは大変だ。貴女《あなた》はAさんのお嬢様に違いありません。然し五階のお部屋にいるお嬢さんは……」と叫んだ。
「偽《にせ》者だ。」
「騙《かた》りだ。」居合せた男達は口々に叫んで、昇降機《リフト》に向おうとする刹那、倏忽《たちまち》戸外《そと》に凄じい騒ぎが起った。それは年若い婦人が五階の窓から敷石の上へ墜落《お》ちて惨死したという報知《しらせ》であった。

        四

 泉原はそれをきくと真先に旅館を飛出した。雨に濡れた敷石の上に、緑色のドレスを着た女が頭蓋骨を粉砕されて無惨な死を遂《と》げていた。真紅《まっか》な血が顔から頸筋をベットリ染めている。それは紛れもない泉原の愛人であったグヰンの変り果てた姿である。泉原は集ってきた人々の手を借りて旅館の一室へ擔込《かつぎこ》んで、応急手当を施したが女は
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