るのはグヰンに相違ない。A嬢はギルに向って手短かに昨夜来の出来事を語った。それによると彼女は昨夜、義理の母に当るA夫人から電報を受取って停車場《ステーション》まで出迎えにいった。すると其処《そこ》にはA夫人の他に従兄《いとこ》のリケットがいた。彼は常々A嬢に取入ろうとして執拗に附纏《つきまと》っている。A老人は予々リケットの不良性を持っている事を知って、家には出入を禁じてあった。それにも拘らずA夫人と共に、停車場へ着いたので、A嬢は烈しい言葉で詰問した事だけは記憶《おぼ》えているが、その後の事は何も知らず、気がついた時は手足を縛《ばく》されて此処《ここ》に監禁されていた、という事である。
「私は従兄のリケットを旅館へつれてゆく事を欲しなかったので、傍にいた自動車の蔭へA夫人を呼んで、相談をしました。その時大方|魔酔剤《ますいざい》を嗅《かが》されたものと見えます。何卒《どうぞ》一刻も早く、旅館へ連れていって下さい。斯《こ》うしている間にも、父様の上にどんな恐ろしい事が起るかも知れないのです。」
 二人は支配人の言でA老人の逝去《なくな》った事実を知っているので、黙って顔を見合せた。ギル
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