烈《はげ》しく女を叱り飛《とば》して、バラ/\と階段を馳上った。泉原も続いて後に従った。廊下から掛った鍵を捻《ひね》って三階の表部屋をあけると、緑色のドレスを着けた娘が手足を縛《ばく》されて椅子に括《くく》りつけられたまゝ、部屋の隅に小さくなっている。その瞬間、泉原はてっきりその女をグヰンだと思った。然《しか》しそれは過《あやま》りで、背恰好《せいかっこう》や顔立は見違える程似ているが、全くの別人であった。不意の闖《ちん》入者に彼女は度を失って、少時《しばらく》言葉もなく立竦《たちすく》んでいたが、相手の二人が救助に来たのであると知ると、
「有難うございました。私は昨晩から悪者の為にこの部屋に監禁されているのでございます。父様《とうさま》はどうなすったでしょう。どうかすぐH旅館《ホテル》へ案内して下さい。私はAというもので、父様の看護の為、当地にきているのです。」と息をきらせながらいった。泉原は素早く馳寄《かけよ》って女の縛《いましめ》を解いた。A嬢といえば先刻《さっき》海浜旅館で見かけた婦人であると思っていたが、今この部屋に監禁されている令嬢を見れば、旅館でA嬢の名を騙《かた》ってい
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