通りになっていますね。そこ迄に幾つ横町があるでしょう。」泉原は相手を振返っていった。
「こゝから数えれば、突あたりの道路をいれて左右に貫いた三つの横通りがありますよ。」
「あの時の自動車の速力から考えても、第一の角を曲って来たとは思われない。第二か第三の角を左手の横通りから出て来たに違いない。若し右横町に彼等の巣があるとすれば、海浜旅館にゆく為にH通りへ出るのは大迂廻《おおまわ》りだ。」
 二人はやがて第二の横町を入った。そこは壊れた敷石の所々に、水溜りの出来ている見窄《みすぼ》らしい家並《やなみ》のつゞいた町であった。玄関の円柱《はしら》に塗った漆喰《しっくい》が醜く剥《はが》れている家や、壁に大きな亀裂《ひび》のいっている家もあった。
「君、左側の家に注意してくれ給え。」
「どうして左側かね。」泉原の言葉にギルは怪訝《けげん》らしく問返した。
「何にそれは斯《こ》うですよ。私の歩いていたのはH通りの右側で、前方から来た自動車の中央にグヰンがいて、その両傍《りょうわき》に年とった婦人と若い男が腰をかけていたからです。自動車には女連を先にして、後から男が乗るのが英国式じゃアありませんか
前へ 次へ
全29ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松本 泰 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング