すとも、グヰンは三人連でV停車場からマーゲート行の汽車へ乗ったのです。A嬢は昨夜ひとりでA夫人と従兄《いとこ》を停車場へ迎えにいったというじゃアありませんか。緑色のドレスを着ていた女が、自動車の中では真紅《まっか》なスエーター姿に早替りをし、而《しか》もA嬢が昨夜停車場へゆくといって海浜旅館を出た時は、赤いスエーターを着ていたという事です。貴郎は二人の若い女のうちのどちらかが、誘拐されていると想像する事は出来ませんか。」
「豪《えら》い、豪い、それからどうした。」ギルは興あり気に訊《たず》ねた。
「私は昨夜自動車に出会った場所は、停車場《ステーション》から海浜|旅館《ホテル》へ出る道路《みち》とは違っている。而《しか》も汽車が到着《つい》た時から一時間も経過《た》っていた。瀕死の状態に陥っているA老人を旅館に残しておきながら、停車場からすぐ旅館へ行かずに、飛んでもない方角違いのH通りを疾走《はし》っていたのは不思議じゃアありませんか。私はA夫人も、それから甥と称する男も怪しいと思う。」
 二人は間もなくH通りの間口の広い雑貨店の前へ出た。
「このH通りの突あたりは丁字《ちょうじ》形の横
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