ないと思ったからさ、緑色のドレスは今年の流行《はやり》で、大抵の若い女は着るからね。」
 泉原はムッとした様子で暫時《しばらく》黙っていたが、
「V停車場で見たのは、私の捜《たず》ねている女に相違なかったですよ。昨晩H通りで出会った自動車にも、確かにグヰンが乗っていたのです。然《しか》し今、海浜旅館で見かけた人は余り距離が隔っていたので、明瞭《はっきり》した事は云えません。今朝方逝去ったというAさんは私の知った方ですから、家族の人にお会いすれば、すぐ疑問は解けますが、取込中だという事ですから、故意《わざ》と遠慮した訳です。」といってスタ/\と歩き出した。ギルは呆れたような様子で相手の顔を瞶《みつ》めていたが、何と思ったか黙って後を追った。
「成程君のいう事が正しいかも知れん。君がV停車場《ステーション》でグヰンを見たとき、先方は三人連だったとかいったっけね。H通りで会った自動車に乗っていたのも同じ三人連で、先刻《さっき》の支配人の話では昨夜|倫敦《ロンドン》から着いたのはA夫人と甥とかいったじゃないか。A嬢は一週間前から父親に附切りだったというから、V停車場にいた筈はなし。」
「無論で
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