ルは傍から口をいれた。
「それで私共も旅館《ホテル》としては出来るだけの御便利を計る事にしております。今晩八時の汽車でこちらをお引上げになるのです。何しろ今はご親戚の方や、牧師さんがお集りになってゴッタ返しておりますよ。」支配人は感慨深く言葉をきった。泉原はそれでも納得せずに、根掘り葉掘り頻《しき》りに娘の容貌などを訊ねているところへ、数人の客がザワ/\と入ってきた。ギルは泉原を引立てるようにして旅館の外へ連出した。
「私にはどうも合点《がてん》がゆかない。若《も》しあの緑色のドレスを着ていた女が、私の捜しているグヰンでなく、一週間前からこの海浜旅館に滞在しているA嬢であるとしたら、昨夕|倫敦《ロンドン》のV停車場《ステーション》で見かけたのは一体誰だろう。」
「恐らく、人違いか。」
「人違いだって? 私はグヰンと永い間一緒に住んでいたのですよ。私は貴郎《あなた》が思う程、頭脳《あたま》が悪くはない積りです」
「悪く解《と》っては困る。そういっちゃア失礼だが、我々英国人から見れば日本人はどれもこれも同じ顔のように思われるから、君達の目から見ても、矢張《やは》り我々は同じに見えるかも知れ
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