りになった。雲を掴むような捜査に二人は根気づかれがして、とう/\泉原の方から、
「最《も》う諦めよう。」といい出した。ギルもそれに同意して丁度通りかゝった海浜旅館を最後とする事にした。如才ない支配人は特別親切に自ら分厚な宿帳を繰って、共々調べてくれた。
「そのような名前のお方はおられませんな。第一昨夜は新規のお客で、若い御婦人などはお宿《とま》りになりませんでしたよ。」支配人の言葉をきゝながら、泉原は何気なく帳場の壁に懸《かか》っている姿見に視線をやった時、鏡の中に緑色のドレスを纏《まと》った女の姿がチラと映った。彼はハッとして四辺《あたり》を見廻すと、ホールの正面にあたった突《つき》あたりの階段を緑色のドレスを着た女が上ってゆくのを認めた。女は既に最後の段を上りきったところで、帳場の方に向って軽く支配人の挨拶に応えながら、階段の上に姿を没して了った。帳場に立っていた三人は期せずして言葉もなく女の姿を見送っていた。
「あれは誰です。遠くで確かには分らないが、あれは私の捜しているグヰンのようです。」泉原が最初に口をきった。
 支配人は途方もないといったように、
「冗談《じょうだん》じゃア
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