。泉原は最初のうちこそ堅くなっていたが、段々心|易《やす》い気持になって、彼がマーゲートへ来た理由を打明けて了《しま》った。
「その女は二年前に君の金を拐帯《かいたい》して逃げたというのかね。女がマーゲートへ下車したという事は間違いないかね。」
「私は現にH町の大通りを歩いていた時、彼等一行の乗っていた自動車に行会ったのです。それから不思議だと思ったのは、V停車場《ステーション》で見た時と、先刻とは全く別な服装をしていた事です。停車場へつくなり、一旦|旅館《ホテル》へいって、それから自動車で出直したといえばそれまでの話ですが、第一H通りから北へかけて、旅館らしいものがありますか。」
「無論ないさ。H通りからK町一帯は住宅地で、旅館は海岸にある計《ばか》りさ。それからどうしたね。」ギルは興味を覚えてきたらしく、膝を乗出してきた。
「私がその自動車に行会ったのは、H通りの中程で、飾窓に青く電燈のついている店から二十間計りいったところでした。自動車は何処《どこ》へいったのかその先は分りません。」
「青い電燈のついているのはSという雑貨屋だ。よし/\明日は幸い非番だから、旅館をさがしてやろう。
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