のだ」
「ではあのガスケル老人が兄殺しをしたのですか」
「無論、ガスケルさんは人殺しなんかしなかったが。証拠を立てる事が出来なかった。それというのは、前の晩自分だけ先に町へ帰ってきて、人目を忍んで嫂の許へいっていたからさ。詮り自分の証明を立てようとすれば、嫂の名誉を傷けるようになるからなのだ。いいかね。二人は兄の目を盗んでいた仲だったのだよ」
「その事件と、ルグナンシェはどういう関係があるのです」
「其頃店員であったルグナンシェは主人を救う為に、法廷で偽りの証言をしたのだ。ガスケルさんはそれで牢へ入らずに済んだが、その代りルグナンシェから、金を強請られていたのですよ。段々それが嵩じてきたので、嫂さんが死去《なくな》ると間もなく、モニカ嬢を連れて、南アフリカのナタールへ逃げていったのです。ルグナンシェはそれで始終ガスケルさんの後を追い廻していたのですよ。ストランドの露路で殺された男ですか、あれはルグナンシェの仲間で、お嬢様に夢中になっていたんですよ。つまり、ルグナンシェに取っては邪魔な奴なんです。俺は昔からガスケル家に大変お世話になったもので、もとからの乞食ではありませんよ。いろいろな悪
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