い奴等が御主人やお嬢様を付狙《つけねら》っているから、ああやって戸外で見張っていたのです。あの時貴郎が時間に遅れずに波止場へ来て呉れたらよかったのだが、ルグナンシェの奴が嗅付けてやってきた為に、すっかり番狂わせになってしまいましたっけ」老人は語り終ると、泡の消えたスタウトを呑乾して、ふらふらと店を出ていった。
 ガスケル家に於ける私の十数日は、完全に夢となって消えてしまった。
 公園の青空で、太陽が過去った冬の日を笑っている。世はもう春である。誰も陰惨な霧の日のことなどを思出す者はない。
[#地付き](「探偵文藝」一九二六年一、二、四月号)



底本:「幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選」光文社文庫、光文社
   2001(平成13)年2月20日初版1刷発行
初出:「探偵文藝 第二巻第一、二、四号」奎運社
   1926(大正15)年1、2、4月号
入力:川山隆
校正:土屋隆
2006年12月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティ
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