は屹度探し出して見せるよ」と彼の肩を叩いて別れた。
睡ったような沈滞した午後であった。高い建物の間々から幾筋も往来へ射込んでいる赤い西日の中で、黄色い塵埃が金粉を吹飛したように躍っていた。
私は塵埃をかぶった靴の先を視詰めながら、様々な事を考え耽っていた。その一つは矢張り「彼女」の事であった。「彼女」は何故あの晩、私に行先をピムリコと云わせておいて、中途からV駅の西口で降りたのであろう。矢張り私にまで行先を晦ます為であったのであろうか。「彼女」の住居はベーカー街であるのに、それと全く反対な方向へ逃げていったのはどういう理由であろう!
私は識らず識らず、V駅の西口まで来てしまった。尤もそこから私の住んでいるガスケル家へゆくには、さして遠廻りでもなかった。淋しい街を一つ越えると、すぐそこはグレー街であった。
私の第一の仕事は、いまのところ例の仏蘭西人の居所を突止める事であった。私はそれに就いて何一つ手掛りは持っていなかったが、唯一つベーカー街の彼女の家で彼の足下から拾ってきた新聞の文字だけが頼りであった。それには El 32[#「32」は縦中横]という文字があったのをよく記憶してい
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