かも知れません。Rの音を皆なLのように発音していました。普通日本人の方だと、Lの発音が旨くゆかないようですね」とちら[#「ちら」に傍点]と私共の方を見ながらいった。事実私共はLとRの発音では、下宿の内儀さんからまで、やかましく云われていたのである。私の頭脳の中には柏の下宿の入口で擦れ違った仏蘭西人の顔が浮んでいた。屹度あいつが支那人を手先に使って盗ませたに違いないと思った。然し私がここで仏蘭西人の事などを手柄顔に持出すと、ついそれからそれへと糸をひいて、彼女の事にまで云い及ばねばならぬ破目になると思って、秘密の上に、また秘密を重ねてしまった。その代り私は柏の為に素人探偵の役を勤めて、必ずあの仏蘭西人を探出して絵を取戻そうと決心した。私はどうしてもあの仏蘭西人を犯人とひとりぎめにしていたのである。
私共はカクストン氏を遺して会場を出た。柏はすっかり気抜けがしたように呆乎《ぼんやり》していて、碌に私の言葉に返事もしなかった。私は最初柏を下宿まで送っていって、気持を引立ててやろうと思ったが、私には考える事があったので、公園の角で、
「おい、そう悄気《しょげ》るなよ。二三日見て居給え、君の絵
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