場で確めてある。林は不思議に思って念の為に百二十八号室の扉を叩いてから部屋へ入り、思掛けずにビアトレスを救出す事が出来た。彼はビアトレスを護ってクロムウェル街へ赴いた。そしてコルトンからエリスへ宛てた強迫手紙を読んで、直にパラメントヒルへ馳付けたのである。彼は幾許《いくらか》の金をやってコルトンを外国へ追遣《おいや》り、エリスを救う所存であった。
 林がパラメントヒルに着いたのは九時五分過であった。彼は暗い小径を左へ折曲って、コルトンとエリスの姿を探し求めているうちに、たちまち側近くに拳銃の音を聞いた。彼は音のした方へ馳寄ると、薄《ぼんや》りとした夜霧の中を走ってゆくエリスの後姿が影絵のように見えた。彼はある怖ろしい予感に脅かされながら、疎《まばら》な木立を背景《バック》にした共同椅子の前へ出ると、コルトンが草の上へ俯せになって仆《たお》れていた。其辺にはまだ火薬の臭が漂っていた。林は確にエリスがやったのだと思った。突嗟《とっさ》の場合にも、彼はどうかしてこの犯罪を隠蔽して、哀れなエリスを救わねばならぬと焦った。彼は間もなく其処を離れて丘の下まできたところを、銃声を聞いて馳付けた警官の
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