P丘の殺人事件
松本泰
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)倫敦《ロンドン》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日本人|贔負《びいき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いて
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一
火曜日の晩、八時過ぎであった。ようやく三ヶ月計り前に倫敦《ロンドン》へ来た坂口《さかぐち》はガランとした家の中で、たったひとり食事を済すと、何処という的《あて》もなく戸外へ出た。
日はとうに暮れて、道路の両側に並んだ家々の窓には、既に燈火が点いていた。公園に近いその界隈は、昼間と同じように閑静であった。緑色に塗った家々の鉄柵が青白い街灯の光に照らされている。
大方の家は晩餐が終ったと見えて、食器類を洗う音や、女中の軽い笑声などが、地下室の明るい窓から洩れていた。ある家では表玄関と並んだ窓を一杯に開けて、若い娘がピアノを弾いていた。またある家では二階の窓際に置いてある鉢植の草花
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