のエリスの家の前へ出てしまった。時計を見ると、九時を大分過ぎていたので、旅館へ引返した。
コルトンはもう部屋へ戻っていた。霎時コトコトと牀の上を歩いているような物音がしていたが、それきり音は歇《や》んで、其儘夜が明けた。
翌日コルトンは一足も外出しないで、昼まで部屋に引籠っていた。給仕を呼んで昼食をも自室に運ぶように命じているらしかったが。
林はその頃チャタムでコルトンが勤めていた製薬会社の名を記憶《おぼ》えていた。それでフト思いついて、チャタムの製薬会社を訪ねて彼の其後の様子を調べて見ようと考えた。
林は早速《さっそく》汽車に乗って。チャタムへ赴いた。製薬会社へいっていろいろ問合せて見たが、何分にも年月を経ているので、予期《おも》っていた程の収獲を得る事は出来なかった。その帰途にフェインチャーチ停車場で下車して二三の汽船会社へ寄って最近に着いた便船の船客名簿を見せて貰った。其結果トーマス・コルトンと名乗る男は蘭《らん》領スマトラから乗船して、二週間前に倫敦へ着いた事を知った。
林が町で夜食をしてから旅館へ帰ると、微かな唸声が隣室に聞えていた。コルトンがまだ戻っていない事は帳
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