余波《とばしり》がきた訳さ」と聞えよがしに大声でいった。
「まア、林小父さんが捕まったのですか?」とビアトレスは思わず叫んだ。
「その通りです。それに就てお宅とは日頃の御関係もありますから、改めて相当の手続を履んでお伺いする事に致しましょう。甚だお気毒ですが、明日は一歩も外出なさらないように予《あらかじ》め申置いておきます」
 二人の刑事は意味有気な薄笑いを浮べながら、悪叮嚀に挨拶をして、坂口を引立てていった。
 H警察署の薄ら寒い一室で、坂口は係官の取調べを受けた。パラメントヒルで、何者にか射殺されたのは、立派な服装をした五十四五の男であった。
 彼は最初何事を訊ねられても頑強に知らぬ一点張りで通して見た。然し、それは却って伯父の嫌疑を深くして彼を死地に陥れるものである事を知った。坂口は伯父を全然、無罪とは信じていなかったが、尚そこに二分の疑念が残っていた。それで仕舞には考直して彼の知っているだけを語った。
 そして彼はパラメントヒルで、死骸の傍に立っていた伯父を見たという件は、寧ろ伯父の加害者でないという事実を立証するものであると力説した。即ち仮に伯父が拳銃《ピストル》を発射《うっ
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