にお許し下さいまし」と先に立った男がいった。彼は更に言葉を続けた。
「貴女が御当家のお嬢様でいらっしゃいますか。実は一時間半程前に、パラメントヒルで殺人がありましたのです。それに就きましてここにいる坂口という青年を取調べる必要があったものですから、所々を訪ねた結果、こちらへ上った訳なのでございます」
「坂口さんは私共のお友達で、そのような恐ろしい殺人などに、関係のある方ではありません」
「成程左様かも知れません。坂口さんがお宅の友達である以上は、林さんと御親交のある事は無論の事ですな。どの点までのお知合いであるか、一応奥様にお目に掛ってお話を伺いたいと存じますが、如何でしょう」男は如才なくいった。
「母は加減が悪いので、今夜はお会わせする事は出来ません」ビアトレスは不興気に云った。
「いつ頃からお加減が悪いのですか。御様子を見ますと、お取込があるように存じますが」
ビアトレスはそれには答えず、相手の顔を視返した。
「イヤ、どうも飛んだ失礼を致しました」男は坂口を振向いて、
「君、御苦労だが警察署まで一緒に来てくれ給え。君の伯父さんが現場から引致《いんち》されたものだからね、つい君にも
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