したでしょう。何故早く帰っていらっしゃらないでしょう」と穏かにいった。
エリスは何事をか云おうとしたが、悲しげな様子をして口を噤《つぐ》んでしまった。
たちまち、玄関の呼鈴が鳴った。三人は思わず顔を見合せて、誰一人席を立つものはなかった。第二の呼鈴が続いて起った時、坂口は思切ったように立上って玄関へ出ていった。
扉を開けると、平服を着た二人の男がヌッと家の中へ入ってきた。彼等は無遠慮に自ら背後の扉を閉めた。
「貴郎はベースウオーター街二十番地に住んで居らるる林という方の甥御さんで、坂口さんと仰有る方ですね」一人の男が口を切った。坂口は黙って点首《うなず》いた。
その間に、もう一人の男は頻りに居間の扉を叩いた。すると部屋の中からスックリとビアトレスが現われた。
「貴郎方は何者です。断りもなく他人の家へ入って来て失礼ではありませんか」彼女は厳しい言葉で慎《たしな》めるようにいった。
二人の男は急いで冠っていた帽子を脱ると、叮嚀《ていねい》な言葉で、
「夜分に飛んだお騒がせを致しまして誠に申訳ありません。仰有る通り、少々失礼には違いありませんが、職掌柄でございますので、どうぞ御寛大
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