そこでタクシーを帰して、木立の間についている小径へ入っていった。
時計は九時を十五分程過ぎている。昼間の天気とは違って、空はすっかり曇っていた。湿気《しめりけ》を持った夜風がしっとりと公園に立|罩《こ》めていた。
坂口は爪先上りの小径を上って、目指すパラメントヒルの土手へ出ようとした時、たちまち身辺に凄まじい銃声が起った。それと同時にバタバタと入交った靴音が聞えた。坂口は思わず芝草の上に立|竦《すく》んだが、靴音を忍ばせて物音の起った方向へ進寄った。
靴音はいつの間にか消えて了った。
闇の中を透すと、つい十数間先を、密《ひそか》に歩いて行く人影を見つけた。それより少し向うに二三の立木があった。男は中折帽子を冠って、右手に杖を持っていた。彼は立木の蔭でフト足を停めた。
見ると男の足下に長々と真黒な人影が横わっている。中折帽子を冠った男は、紛れもない伯父の姿であった。
五
坂口は霎時の間、闇の中に棒立になっていたが、次の瞬間に伯父は、北に向って走っている小径を、周章《あわただ》しく歩去った。坂口はフト我に返ると、その辺にまごまごしているのは危険であると感じて
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