ず、手紙が来ることさえ、私に隠匿《かく》そうとなすっていらっしゃるのよ。何か凶《わる》い事でも起ったのではないでしょうか」
ビアトレスの言葉を聞いて、坂口は前夜伯父の書残していった不思議な置手紙を思出した。彼はその事が危く口に出かかったが、気がついて口を噤《つぐ》んでしまった。
「ビアトレスさん、余り心配なさらないがいいです。伯父さんもいることですから、小母さんの為には、どんな事でもして吃度《きっと》小母さんの御心配を取除くに違いありません。然し一体それはどんな手紙でしょう」
坂口は霎時していった。
「今迄私の見た事のない筆蹟で、それがみんな、同じ人から来るらしいのよ。母さんは女中にさえ、手紙の上書を見られるのを厭がっていらっしゃるのです。今朝もエドワード夫人が手紙を受取って、母さんのところへ持っていったら、平常の母さんに似合わず、引奪《ひったく》るようにしてそれを持って、二階へ引込んでおしまいなすったのです」
「それは林伯父さんの手紙ではありませんか」
「真逆《まさか》そんな事はないわ。無論、男の筆蹟には違いありませんが、小父さんとは違ってよ」
「そんなに度々何処から手紙が来るの
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