お休息《やすみ》なさい」ビアトレスは劬《いたわ》るようにいった。
エドワード夫人は間もなく家を出ていった。
書斎のベランダでは、鸚鵡が喧ましく女中の名前を呼んでいる。二人は別々の事を考えながら、霎時《しばらく》黙って椅子にかけていた。
「林小父さんは此頃どうしていらしって?」編物を膝へ置いて、硝子《ガラス》戸越しにぼんやりと戸外を眺めていたビアトレスは、突然声をかけた。
「伯父ですか、……別に平常と変った事はないと思いますが、……」
「そうなの、家の母さんは此五六日ほんとに様子が訝《おか》しいのよ。貴郎はそれに気がお付きになって?」
「そう仰有《おっしゃ》れば、昨夜も何だかソワソワして、淋しそうにしていらしったと思います」
「エエ、本統にそうなの、私何だか心配で仕方がないのよ。そして不思議な事には、此節しげしげと、何処からか手紙が参りますの、その度に母さんは悲しそうに溜息をしていらっしゃるわ」
「母さんは其事に就ては、何事も貴女に仰有いませんか」坂口は怪訝《いぶかし》そうに相手の顔を視守った。
「エエ、私は心配になって、度々その訳をお訊きするのですけれども、その事に就ては何も仰有ら
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