けれども」ビアトレスは冗談らしくそう云ったが、急に不安らしい顔付をして、何やら考込んで了った。
「小母さんはお不在ですか。そして昨夜の女はどうしました」
「ああ、あの方はエドワード夫人というのですって、もうすっかり元気を快復して、今朝は私達と一緒に朝御飯を喰べました。今しがたまで、その辺に見えましたが、大方三階へいったのかも知れません。じき下りて来るでしょう」ビアトレスがいっているところへ、噂のエドワード夫人が血色の勝れない顔をして入ってきた。
「昨夜は本統に、御世話をかけて済みませんでした。お蔭様で助かりました」
「お礼には及びません。でも御元気になられて結構です」と坂口がいった。
 エドワード夫人はビアトレスに向っていった。
「お嬢様、誠に有難うございました。宿のものが心配しているといけないから、一旦|自家《うち》へ帰りまして、改めてお礼に伺います。お母様がお帰宅になったら、どうぞ宜しく申上げて下さい」
「そうですか、では気をつけてお帰りなさいね。お宅はモルトン町だそうですから、そんな遠い所から、わざわざ出直していらっしゃらないでもよろしゅうございますわ。お宅へ帰って悠《ゆっく》り
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