銃は捜査の結果、現場から余り離れていない雑木林の中で発見したという事です。そしてそれは殺された男の所有品である事が判ったのです」
「被害者の拳銃で伯父が相手を射撃するというのは不思議ではありませんか」坂口は元気づいて叫んだ。
「それが却っていけないのです。林さんは旅行に出掛けたと見せて、実はパーク旅館のその男の隣室に宿《とま》っていたのです。それで娘を助ける事が出来、拳銃も持出す事が出来たものと、警察では思っているのです」
「然しその拳銃がどうして殺された男の所有品である事が判明《わか》ったでしょう」
「パーク旅館の滞在人であるという事は、昨夜の中に所持品で知れたのです。それで旅館の部屋を捜査《さが》しているうちに、その男がスマトラにいた頃、官憲の拳銃購入許可書と銃器店の出した受取書を発見したのです。その受取書に拳銃の番号が記してあったという事です」エリスは絶望したように首を左右に振った。
「そうですか、伯父自ら罪を承認したといえば、どうしても致し方ありません」坂口はその儘|俯向《うつむ》いてしまったが霎時すると顔を上げて、
「どうか有の儘にお話して下さい。小母さんはどの位永くあの腰掛《ベンチ》にいました。そしてその男とどんな談話《はなし》をなさいました?」と熱心にいった。
エリスは稍《やや》当惑気に坂口の顔を視詰めていたが、やがて意を定めたようにいった。
「十分間程でした。男は私に五百磅を強請しました。私はそのお金を用意して持って居りました。無論金は渡してやる覚悟でありましたけれども、将来またこうした強請に合うのを虞《おそ》れましたので、その男のいう通り南米へ行って必ず二度と英国へ足踏みしないという誓を立てれば、お金をやっても可いといったのです」
「それからどうしました」
「すると彼がいうには『自分には敵があって、絶えず附|纏《まと》われているので、英国にいては一刻も枕を高くしてはおられないから、便船のあり次第南米へ渡って、一生涯英国には帰らない』と答えました」
「その男を付狙っている敵があると、仰有るのですか」
「そうです。彼はこういいました。すると、たちまち、拳銃の音がして、アッと悲鳴をあげながら彼は腰掛からのめり落ちました。私は不意の出来事に気も顛倒して逃去ったのです」
「待って下さい。その時彼は腰掛のどっち側に腰をかけていました?」
「私は広場に向って左
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