る電信の柱ばかりはついついと真直に上り行けばあの柱までと心ばかりは急げども足疲れ路傍の石に尻を掛け越《こ》し方《かた》を見下せば富士は大空にぶら下るが如くきのう過ぎにし山も村も皆竹杖のさきにかすかなり。
沓の代はたられて百舌鳥の声悲し
馬の尾をたばねてくゝる薄かな
菅笠のそろふて動く芒かな
駄句積もるほどに峠までは来りたり。前面|忽《たちま》ち見る海水盆の如く大島初島皆手の届くばかりに近く朝霧の晴間より一握りほどの小岩さえありありと見られにけり。
秋の海名も無き島のあらはるゝ
これより一目散に熱海をさして走り下りるとて草鞋の緒ふッつと切れたり。
草鞋の緒きれてよりこむ薄かな
末枯や覚束なくも女郎花
熱海に着きたる頃はいたく疲れて飢に逼《せま》りけれども層楼高閣の俗境はわが腹を肥やすべきの処にあらざればここをも走り過ぎて江《え》の浦《うら》へと志し行く。道皆海に沿うたる断崖の上にありて眺望いわん方なし。
浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈
根府川《ねぶかわ》近辺は蜜柑《みかん》の名所なり。
皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな
石橋山の麓を過ぐ頼
前へ
次へ
全13ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング