ふ機会を得て直《ただち》に泣き出すのである。そんな機会はなくても二、三度押されたらもう泣き出す。それを面白さに時々僕をいぢめる奴があつた。しかし灸を据ゑる時は僕は逃げも泣きもせなんだ。しかるに僕をいぢめるやうな強い奴には灸となると大騒ぎをして逃げたり泣いたりするのが多かつた。これはどつちがえらいのであらう。[#地から2字上げ](四月八日)

 一 人間一匹
 右|返上《へんじょう》申候但時々幽霊となつて出られ得る様|以特別《とくべつをもって》御取計|可被下《くださるべく》候也
  明治三十四年月日               何がし
     地水火風《ちすいかふう》御中[#地から2字上げ](四月九日)

 余の郷里にては時候が暖かになると「おなぐさみ」といふ事をする。これは郊外に出て遊ぶ事で一家一族近所|合壁《かっぺき》などの心安き者が互にさそひ合せて少きは三、四人多きは二、三十人もつれ立ちて行くのである。それには先づ各自各家に弁当かまたはその他の食物を用意し、午刻《ごこく》頃より定めの場所に行きて陣取る。その場所は多く川辺の芝生にする。川が近くなければ水を得る事が出来ぬからである。
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