かし原作がこんなに俗であるかどうかそれは知らぬ。[#地から2字上げ](四月五日)
故|陸奥宗光《むつむねみつ》氏と同じ牢舎に居た人に、陸奥はどんな人か、と問ふたら、眼から鼻へ抜けるやうな男だ、といふ答であつた。今生きて居る人にも眼から鼻へ抜けるほどの利口者といはれて居るのが二、三人はある。自分も一度かういふ人に逢ふて、眼から鼻へ抜ける工合を見たいものだ。[#地から2字上げ](四月六日)
この頃は左の肺の内でブツ/\/\/\といふ音が絶えず聞える。これは「怫《ぶつ》々々々」と不平を鳴らして居るのであらうか。あるいは「仏々々々」と念仏を唱へて居るのであらうか。あるいは「物々々々」と唯物説《ゆいぶつせつ》でも主張して居るのであらうか。[#地から2字上げ](四月七日)
僕は子供の時から弱味噌《よわみそ》の泣味噌《なきみそ》と呼ばれて小学校に往ても度々泣かされて居た。たとへば僕が壁にもたれて居ると右の方に並んで居た友だちがからかひ半分に僕を押して来る、左へよけようとすると左からも他の友が押して来る、僕はもうたまらなくなる、そこでそのさい足の指を踏まれるとか横腹をやや強く突かれるとかい
前へ
次へ
全196ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング