んな些細な事を論ずる歌よみの気が知れず、などいふ大文学者もあるべし。されどかかる微細なる処に妙味の存在なくば短歌や俳句やは長い詩の一句に過ぎざるべし。[#地から2字上げ](三月二十八日)
『明星』所載落合氏の歌
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いざや子ら東鑑《あずまかがみ》にのせてある道はこの道はるのわか草
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この歌一読、変な歌なり。先づ第一句にて「子ら」と呼びかけたれば全体が子らに対する言葉なるべしと思ひきや言ひかけは第四句に止まり第五句は突然と叙景の句を出したり。変な歌といはざるを得ず。あるいは第五句もまた子らにいひかけたる言葉と見んか、いよいよ変なり。また初《はじめ》に「いざや」とあるは子らを催す言葉なれどもこの歌一向に子らを催して何をするとも言はず。どうしても変なり。この歌のために謀《はか》るに最上の救治策は「いざや子ら」の一句を省くに如かず。代りに「いにしへの」とか何とか置くべし。さすれば全体の意味通ずる故少々変なれども大した変にもならざるか。そはとにかくに前の歌の結句といひこの歌の結句といひ思ひきりて佶屈《きっくつ》に詠まるる処を見れば作者も若返りていは
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